2010/08/03

トランスクリエーション



翻訳を勉強しはじめたころから
どうも頭にひっかかっていることがあり
それをどう言葉にしたものか
うまい表現が見つからなかったのですが

最近、仕事をするようになった
ロンドンのある会社からのメールのなかに
それを表すちょうどいい言葉が見つかりました。

それが「Transcreation(トランスクリエーション)」です。

まずこの言葉についてですが
translation=翻訳」と「creation=創造」という
二つの言葉の造語です。

意味はつまり
「翻訳なのだけれど創作」ということでしょう。

例を挙げて説明してみましょう。

内容をわかりやすくするため
ちょっと極端な書き方をしますね。

<例1> 英語日本語
原文=Thank you
翻訳=ありがとう(直訳 あなたに感謝します)
トランスクリエーション=嬉しいわ

<例2> 日本語英語
原文=ありがとう(「有難く」のウ音便化)
翻訳=Thank you 直訳 It rarely happens.
トランスクリエーション=You’re great.

もちろん翻訳として
Thank you」は「ありがとう」ですし、
「ありがとう」は「Thank you」です。

けれど、映画などの字幕を見ていてわかるように
Thank you」を「嬉しいわ」とした方が
ぴったりくる場面がありますし
「ありがとう」が「You are great!」となる
場面もあります。

この「ぴったりくる」が
トランスクリエーションの
一番の存在理由です。

そしてこの「ぴったりくる」を
一番必要としているのは
学術研究や文学の世界ではなく
ビジネスです。

外資系企業などで
ローカライズの仕事を何年か担当された方なら
トランスクリエーションの必要性を
たぶんわかっていただけるのではないでしょうか。

外国製ソフトウェアのマニュアルや
製品説明の日本語を読んで
言葉はわかるのに内容がほとんど頭に入ってこない
といった経験があるのは僕だけではないでしょう。

そんなことになってしまうのは
そうした資料が原文に寄り添った
忠実な翻訳であるからです。

翻訳は原文に忠実でなければいけません。

これが翻訳を学びはじめてから
ずっと僕の頭にひっかかっていたことです。

この忠実さは翻訳をやる以上
絶対的なルールなのですが
ここから「ぴったりくる」自然さは
生まれにくいのです。

忠実に原文に寄り添うことによって
原文に宿っていた生命が抜けてしまうことが
あるのだと思います。

トランスクリエーションは
そうした悩みを解消する
翻訳の在り方を表した言葉
なのではないかと
僕は考えています。

ちなみにウェブを散歩していたら
こんなふうにトランスクリエーションを
紹介しているブログがありました。

ご参考までにblog.alaya